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執筆者の写真北原 功士

2022年の苦悩


 

 2022年に令和怪奇画報の3冊目である『人類滅亡編』を出版しました。


活動開始当初の資金は底をつき、あらゆる手を尽くし用意した200万円での出版でした。

 印刷代が無いため出版の目途が立たず、とにかく絵を描き続けた事もあり、前の2冊に比べ時間をかけた分、絵の密度も高くページ数も絵の枚数も多い1冊になりました。


 印刷代の工面には妻の尽力もあり、何とか出版に漕ぎつけましたがそれまでの苦悩は大きく、精神的には静かに追い詰められていたようです。そのためか、次の「未確認生物編」の制作になかなか取り掛かれず、如何なる表現を用いて作画するべきか、アイデアが出ない日々が続きました。

 そもそも未確認生物というものは、目撃証言はあるものの科学的現実的に未発見とされている事が神秘的イメージを想起させるのでしょうが、実際は妖怪のような魅力ある性質や形態をしているわけではなく、単なる猿人や恐竜です。そんな題材を読者の皆さんに楽しんで戴けるような絵にするのはどうするべきか、大いに悩みました。

 人類滅亡編の作画は商業仕事を挟んだりしたため1年以上に及び、その間ほとんど机に向かっていたため読書なども限られていました。情報のインプットよりアウトプットが上回ってしまっていたのも、発想が鈍化してしまった理由だったかも知れません。

 そこで、未確認生物という題材を面白く描くにはどうするべきかを念頭に置きつつ、読書や映画鑑賞などのインプットする時間を意識的に増やしました。そこで怪奇とは僕にとってどんなものかをもう一度確認しようと、子供の頃に怪奇児童書と共にわくわくしたものは何かを考え、ハマーフィルムやユニバーサルのモンスター映画がそれだと思い、一通り見返しました。その流れで大映の妖怪シリーズや大魔神、ガメラなども見直すと、ぼんやりと自分にとって楽しい怪奇要素というものが見えてきました。ホラー映画の刺激的な場面より、じわじわと不気味を感じさせる状況が続きじらされた挙句、突然全容を現す怪物の姿が好きなんだと気づきました。

 そこで探しても見つからないものをついに発見した瞬間をとらえる「ツチノコ」の絵のイメージができ、現れたからには残虐に人を襲う「ヒバゴン」の絵が出来ました。

 その2枚を描いている作業中に、子供の頃に観ていた特撮ヒーロー物を流し続け、映画や書籍とは別の怪奇を思い出していました。70年代後半のどこか奇妙なデザインの怪人たちが面白く、ネッシーのアイデアに至りました。

 その延長でチュパカブラのアイデアも思いつき、やっと調子が取り戻せた気がしています。夏から冬まで苦悩が続きましたが、未確認生物編の方向性が見え、安堵しています。

 令和怪奇画報の制作出版を始めてから、3年間休みなく机に向かい、読書もままならなかったのですが、模索のための読書や映画研究ができて、苦悩しつつ楽しい気持ちにもなれた年でした。

 令和怪奇画報は印刷代は回収できるものの生活費や画材代を考えれば出版するたびに1冊あたり200万円の赤字になっていましたが、人類滅亡編を出してから3冊同時に購入してくれる方も多く、前の2冊だけを販売している状況よりは多少売り上げが上がり、例によって資金不足ではありますが、4冊目を出すのに絶望的な経済状況ではないのも精神的に救われています。

 そういうわけで2023年はある程度作画に没頭できそうな気がしています。

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