浅草に住んでいます。
江戸川乱歩や堀辰雄、谷崎潤一郎などが好んだ街であり、乱歩は怪奇の舞台に、堀辰雄は死の街として小説の題材に多く取り上げました。
関東大震災で倒壊した浅草十二階は、乱歩も堀辰雄も印象深いかたちで描きました。
歌人としてあまりにも有名な石川啄木も、死後公開されたローマ字日記で浅草十二階下の淫売婦たちとの行為を記し、知られざる放蕩な生活を暴露されています。
あしたのジョーの泪橋、吉原大門、東海道四谷怪談のお岩が住む花川戸も近く、観光地、娯楽の街とされる半面、世界の日陰の部分を持った地域でもあり、その闇の歴史を鑑みれば奇妙な魅力があります。
僕が住んでいる浅草六区の住まいは、かつて1910年から僅か一年足らずで火災により焼失した遊園地ルナパークの跡地です。
ルナパークは現在のヴァーチャルリアリティともいえる装置を使ったアトラクションがあり、100年以上前の技術やアイデアには驚かされます。
他にも花やしきや紙芝居、浅草寺裏には見世物小屋が並んだ時期もあり、怪奇と娯楽に溢れていた明治大正の浅草を想像しつつ、失われた幻想的な街の名残を楽しんでいるのです。
無論、現在は近代化のため、かつての姿を想像するにはなかなか厳しいものがあります。
しかしながら、江戸川乱歩の「木馬は回る」の舞台となった木馬館は今なお存在し続けているし、明治文学や江戸時代の戯曲にも登場する浅草寺など、少し視点を変えて眺めれば怪奇の片鱗を感じる事ができるのです。
浅草に住んで数年経ちますが、まだまだ浅草から離れる気にはなりません。
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