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執筆者の写真北原 功士

IT

 スティーブン・キング原作の「IT」の映画がヒットし、続編の公開も間近ですが、ノスタルジーと怪奇は同義であるという僕の持論が明瞭に描かれているのが「IT」です。

 少年期に体験した恐怖と不気味で不可解な存在であるペニーワイズを大人になった主人公たちは忘れています。

 大人になり、子供の頃の事を思い出そうとする時、そのイメージの中に少し不気味な闇のような印象を感じるのは、僕だけではないのでしょう。あの頃、不可思議な怪物のようなものを見たが、忘れてしまっているだけなのではないかと思った事はないでしょうか。

 その不明瞭な記憶の正体・・・それは、紛れもなく皆さん自身が少年期に感じた恐怖そのものです。大人たちには見えない、数多の怪異に恐怖した記憶なのです。それは、テレビで見たオカルト心霊番組や、怪奇児童書で読んだ妖怪、漫画に描かれた怪奇・・・など、幽霊や地獄、妖怪の存在を信じていた頃の恐怖の記憶。

 多くの経験から、幽霊や怪物が存在しないと認識し、いつしか心の片隅に追いやられ薄れていった記憶ですが、当時感じた恐怖心は本物なのです。

 

 多くの人にとって、怪奇は少年期に息づきます。僕の場合は昭和70年代前半あたりがもっとも恐怖に満ちた時代なのです。キングの小説での「IT」は50年代に少年たちがペニーワイズに恐怖しますが、映画では80年代になっています。世代により、少年時代が違うように、怪奇が息づく時代も人によって変わります。いずれ、90年代や2000年代もノスルタジーと共に怪奇の舞台となるでしょう。


 僕の怪奇画は、怪談や現実の事件のように時代が明確に設定されていないものは、舞台を昭和70年代前半あたりにしています。そのアイコンとしてセーラー服の女学生などを描いています。無論、僕にとってもっとも怖い時代で、妖怪や亡霊、宇宙人や未確認生物が僕の心の中では現実の恐怖として存在していたからです。

 あの時代のように、今から不可思議な存在を信じる事は難しい。だからこそ、怪奇は少し過去にあるのです。懐かしい思い出と共に。

  


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